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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
五
俄然、自信のある声で首を横に振った。お通はそう反対されたほうが欣しかった。
「――思うに、新免武蔵は、もうついそこらまで来ておるのじゃろう。しかしまだ、わしが、敵か味方か、わからないのだ。不愍や自らの疑心暗鬼に惑うて、言葉もよう懸け得ずに、物蔭に、卑屈な眼をかがやかせているものとみえる。……そうだ、お通さん、そなたが、帯に差している物――それを、わしにちょっと貸してくれい」
「この横笛ですか」
「ウム、その笛を」
「いやです、こればかりは、誰にも貸せません」
五
「なぜ?」
いつになく、沢庵は執こくいう。
「なぜでも」
お通は、首を振る。
「貸してもよかろう。笛は、吹けば吹くほど、良くこそなるが減りはしまい」
「でも……」
帯に手をあてて、お通は依然、はいといわない。
もっとも、彼女が肌身離さず持っているその笛が、如何に彼女にとって大事な品であるかは、かつてお通自身が、身の上話をした折に聞いてもいるので、沢庵は十分にその気もちを察しはするが、ここで自分へ貸すぐらいな寛度はありそうなものと、
「粗相には扱わないから、とにかく、ちょっとお見せ」
「嫌」
「どうしても」
「え。