Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

五

「ア……。これは粗相、お客でござったか」

藤次がいうと、

「客ではないッ」と天井へ向って、その男は、寝たまま怒鳴る。

ぷーんと、酒のにおいが、その体からうごいてくる。誰か知らぬが、触らないにかぎると、

「いや、失礼」

立ち去ろうとすると、

「やいっ」

むッくり起きて呼び返した。

「――後を閉めてゆけ」

「ほ」

気をのまれて、藤次が、いわれた通りにしてゆくと、風呂場の次の小間で、朱実の髪をなでつけていたお甲がどこの御寮人かとばかり、こってり盛装したすがたをすぐその後から見せて、

「あなた、何を怒ってるんですよ」

と、これまた、子どもでも叱りつけるような口調でいう。

朱実が、うしろから、

「又八さんも行かない?」

「どこへ」

「阿国歌舞伎へ」

「べッ」

本位田又八は、唾でも吐くように、唇をゆがめてお甲へいった。

「どこに、女房のしりに尾きまとう客の、そのまたしりに尾いて行く亭主があるかっ」

五

化粧きぬいて、盛装して――女の外出は浮いた感傷に酔っている、それを、掻き乱された気がしたのであろう。

「何ですって」

お甲は眼にかどを立てた。

「私と藤次様と、どこが、おかしいんですか」