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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
三
上目づかいに武蔵の顔いろを窺っていった。
「その節のことは、どうか水にながして、お聞き捨てのほどを」
三
このあいだ宝蔵院で、目に見た武蔵の実力には、大いに怖れを抱いている山添団八であるが、それかといって年はまだ二十一、二歳の田舎武士にすこし鰭がついて世間へ泳ぎ出した程度にしか見えない武蔵に対して、肚から兜を脱いではいない。
「武蔵どの。これから、旅はどちらの方面へ」
「伊賀を越え、伊勢路へ参ろうと思う。――貴公は」
「それがしは、ちと用事があって、月ヶ瀬まで」
「柳生谷は、あの近傍ではありませんか」
「これから四里ほどして大柳生、また一里ほど行くと小柳生」
「有名な柳生殿の城は」
「笠置寺から遠くないところじゃ。あれへもぜひ立ち寄って行かれたがよいな。もっとも今、大祖宗厳公は、もう茶人同様に別荘のほうへ引き籠られ、御子息の但馬守宗矩どのは、徳川家に召されて、江戸に行っているが」
「われらのような一介の遍歴の者にでも、授業して下さろうか」
「たれかの紹介状でもあればなおよろしいが。――そうそう月ヶ瀬に此方の懇意にしている鎧師で柳生家へも出入りしている老人がある、なんなら頼んであげてもよいが」