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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
四高弟
一
「軽いっ――太刀先ではないっ――肚っ、肚っ肚っ!」
襦袢一着に、袴をつけ、用人の庄田喜左衛門は、一段高い床に腰をかけて、呶鳴っていた。
「出直せっ、成っていない」
叱られているのは、やはり柳生家の家士であった。汗で眼まいのしている顔を、
「アふっ……」
振りうごかしながら、
「えやあっ!」
すぐ火と火のように打ち合っているのだった。
ここでは、初心に木剣を持たせなかった。上泉伊勢守の門で考案したという韜という物を使っている。革のふくろに割竹をつつみこんだ物である。鍔はない、革の棒だ。
――ぴしいッっ。
撲ることの烈しい場合は、それでも、耳が飛んだり、鼻が柘榴になったりする。敢えて、打ちどころに約束はないのである。横ざまに、諸足を撲ってぶっ仆してもいいのだ。仆れて仰向いた顔へ、さらに二撃を加えてもべつだん法に反いたことにはならない。
「まだ! まだ! そんなことで」
ヘナヘナになるまでやらせておく。初心ほどわざと冷酷にあつかう。ことばでも罵る。たいがいな家士は、これがあるので柳生家の奉公はなみなことではないといっている。新参などで続く者は稀れである。従って、ふるいにかけられた人のみが、家中なのだ。