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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
巡りぞ会わん
一
――朱実は不平を顔に漲らせて、家の内へ、嫌々駈けこんでしまった。
それと共に、お甲の顔もかくれた。――城太郎は閉まった窓を見上げて、
「けっ。ばばあのくせに、白粉なんかつけやがって、ヘンな女!」
と、悪たれた。
すぐ、その窓がまた開いた。
「なんだッて、もういちどいってごらん!」
「あっ、聞えやがった」
あわてて逃げ出す頭へ、後ろから――ざぶりっと、うすい味噌汁みたいな鍋の水をぶちかけられて、城太郎は、狆ころみたいに身ぶるいした。
襟くびにくッついた菜っぱを、妙な顔をしながら摘んで捨て、忌々しさを、ありッたけな声に入れて、唄いながら逃げ出した――
本能寺の
西の小路は
暗いげな
あずさの姥が
白いもの化粧いして
漢女子産んだり
紅毛子産んだり
タリヤンタリヤン
タリ、ヤン、タン
巡りぞ会わん
一
米俵か小豆か、とにかく裕福な檀家の贈りものとみえ、牛車に山と積まれてゆく俵の上には、木札が差し立ててあり、
興福寺寄進
と墨黒く記してある。
奈良といえば興福寺――興福寺といえばすぐ奈良が思い出されるのである。城太郎も、その有名な寺だけは知っていたらしく、
「しめた、うまい車が行くぞ――」