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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
二
二
実は、心のそこでは、会いたくて会いたくて、うしろ髪をひかれるような姉のお吟にさえ、眼をつぶって、会わずに足を早めて来た心の矢さきである。
(なんで!)
と、武蔵は、勃然と自分へいう。
――なんで、これからの修業の旅出に、女などを連れて歩かれるものか。
しかも、この女なるものは、かりそめにも本位田又八の許婚であった者。あのお杉婆にいわせれば、聟はいなくとも、
(うちの嫁女)
であるお通ではないか。
武蔵は、自分の顔に、苦い気持が滲みでるのをどうしようもなく、
「連れて行けとは、何処へ」
と、ぶっきら棒にいった。
「あなたの行く所へ」
「わしのゆく先は、艱苦の道だ、遊びに遍路するのではない」
「わかっております、あなたのご修業はお妨げしません、どんな苦しみでもします」
「女づれの武者修業があろうか。わらいぐさだ、袖をお離し」
「いいえ」
お通は、よけいに強く、彼の袂を握って、
「それでは、あなたは、私を騙したのですか」
「いつ、そなたを騙したか」
「中山越えの峠のうえで、約束したではありませんか」
「む……。あの時は、うつつだった。自分からいったのではなく、そなたの言葉に、気が急くまま、うんと、答えただけであった」