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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
五
「汝れは元、村では武蔵といい、この婆などは、悪蔵と称んでいたものじゃが、今では、名を変えているそうじゃの、宮本武蔵と。――えらそうな名わいの。……ホ、ホ、ホ」
と、皺首を振って、まず、刀を抜く前に、言葉から斬ってかかった。
「――名さえ変えたら、この婆にも、捜し当てられまいと思うてかよ! 浅慮な! 天道様は、この通り、おぬしが逃げ廻る先とても照らしてござるぞよ。……さ、見事、婆の首取るか、おぬしが生命をもらうか、勝負をしやれ」
権叔父も、次に、皺がれ声をしぼった。
「汝れが、宮本村を逐電して以来、指折り数うればもう五年、どれほど捜すに骨を折ったことか。清水寺へ日参のかいあって、ここでわれに会うたることのうれしさよ。老いたりといえども淵川権六まだまだ、汝れが如き小僧におくれは取らぬ。さあ、覚悟」
ぎらりと、太刀を抜いて、
「婆、あぶないぞや。うしろへ避けておれ」
と、庇うと、
「なにをいう!」
ばばは、却って権叔父を叱咤し、
「おぬしこそ、中風を病んだ揚句じゃによって、足もとを気をつけなされ」
「なんの、われらには、清水寺の諸菩薩が、お護りあるわ」
「そうじゃ権叔父、本位田家のご先祖さまも、うしろに助太刀していなさろう。