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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
二
すると、
「あっ……」
出会いがしらのことである。誰か、彼のすがたを見ると共に、樹の間へあわてて逃げこんだ者がある。武蔵は、理由なく自分を忌み厭う人間に、憤ッとしたらしく、
「待てッ」
豹のように跳びついた。
二
よくこの山を往来する炭焼きなのだ。武蔵はこの男の顔を見知っている、襟がみをつかんでひき戻しながらいった。
「やいっ、なぜ逃げる? 俺はな、忘れたか、宮本村の新免武蔵だぞ、何も、捕って食おうといいはしない。挨拶もせず、人の顔見て、いきなり逃げいでもよかろう」
「へ、へい」
「坐れ」
手を離すと、また逃げかけるので、今度は、弱腰を蹴とばして、木剣で撲るまねをすると、
「わっッ」
頭をかかえて、男はうッ伏した、そのまま腰をぬかしたように戦慄して、
「た、たすけてッ」
と、喚いた。
村の者が、何のために、自分をこんなに恐怖するのか、武蔵にはわからなかった。
「これ、俺が訊くことに、返辞をせい、よいか」
「なんでも、申しますだが、生命だけは」
「誰が生命をとるといったか。麓には、討手がいるだろうな」
「へい」
「七宝寺にも、張りこんでいるか」
「おりますだ」
「村の奴ら、きょうも、俺を捕まえようとして、山狩に出ているか」