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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

千年杉

一

吉報か、凶報かと村の人々は、

「それっ」

とわれ勝ちに、駈けのぼって行った。

「捕まった! 武蔵が、捕まッて来た」

「おウ、ほんまに」

「誰が、手捕にしたのじゃ」

「沢庵様がよ!」

本堂の前は、押し合うばかりな人で囲まれていた。そしてそこの階段の手欄に、猛獣のように縛りつけられている武蔵のすがたをながめ合って、

「ほウ」

と、大江山の鬼でも見たように生唾をのんだ。

沢庵は、にやにや笑いながら、階段に腰かけていた。

「村の衆、これでお前らも安心して耕作ができるじゃろうが」

人々はたちまち沢庵を村の護り神か、英雄かのように見直した。

土下座をするものがあった。彼の手を押しいただいて、足元から拝む者もあった。

「ごめん、ごめん」

沢庵は、それらの人々の盲拝に、閉口しきった手を振って、

「村の衆、よう聞け、武蔵が捕まったのは、わしが偉いためじゃない。自然の理だよ。世の掟にそむいて勝てる人間はひとりもありはしない、偉いのは、掟じゃよ」

「ご謙遜なさる、なお偉いわ」

「そんなに押し売りするなら、かりにわしが偉いにしておいてもよいが。――時に、皆の衆に、相談があるがの」

「ほ、なんぞ?」