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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
「なりません」
と、お杉は極めつけて、
「せがれが戻るまでの間に、そなたの身に虫がついてはならぬ。嫁の素行を見まもるのは、わしの役目、この婆の側にいて、伜がもどるまでに、畑仕事、飼蚕のしよう、お針、行儀作法、何かと教えましょう。よいか」
「は……はい……」
仕方なくいう自分の声が、情けなくて泣くように自分には聞えた。
「次に」
と、お杉は命じるように、
「武蔵のことじゃが、あの沢庵坊主の肚は、ばばには、どうも解せぬ。そなたは、幸いに此寺にいる身でもあることゆえ、武蔵めの生命が終るまで、怠らずに、ここで見張っていやい――真夜半など、気をつけておらぬと、あの沢庵が、何を気ままにしてのけぬものでもない」
「では……私が此寺を出るのは、今すぐでなくともよいのでございますか」
「いちどに、両方はできますまい。そなたが、荷物と一緒に本位田家へ移って来る日は、武蔵の首が胴を離れた日じゃよ。わかりましたか」
「畏まりました」
「きっと吩咐けましたぞよ」
念を押して、お杉は去った。
すると――その機会を待っていたように、窓の外に人影が映し、
「お通、お通」
と小声で誰か招く。
ふと、顔を出してみると、どじょう髯の大将がそこに佇立んでいる。