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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

花田橋

一

「あいや」

袂をとらえ、

「武蔵、おぬしには、まだもう一人会いたい人があるはずではないか」

「? ……、誰ですか」

「お吟どの」

「えっ、姉は、まだ生きておりましょうか」

夢寐の間も、忘れてはいないのである。武蔵は、そういうとすぐ眼を曇らせてしまった。

花田橋

一

沢庵のことばによると、三年前武蔵が日名倉の番所を襲った時は、姉のお吟はもうそこにはいなかったので、何の咎めもうけず、その後は、種々な事情もあって宮本村へは帰らなかったが、佐用郷の縁者の家へ落着いて、今は無事に暮しているというのである。

「会いたかろ」

沢庵は、すすめた。

「お吟どのも、会いたがっておる。したが、わしはこういって待たせて来たのじゃ。――弟は、死んだと思え、いや、死んでおるはずじゃ。三年経ったら、以前の武蔵とはちがった弟を伴れて来てやるとな……」

「では、私のみでなく、姉上の身まで、お救い下さいましたのか。大慈悲、ただかようでござりまする」

武蔵は胸のまえで、掌をあわせた。

「さ、案内しよう」

促すと、

「いや、もう会ったも同じでござります。会いますまい」

「なぜじゃ?」

「せっかく、大死一番して、かように生れ甦って、修業の第一歩に向おうと、心を固めております門出」