Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

三

「伺っておりました」

「え、知っていた?」

「はい、沢庵さんから聞いていましたから」

「じゃあ、あの御坊、お通どのへは、何もかも話していたのか」

「三日月茶屋の下の竹谷で、私が気を失っていたところを、救ってくれたのも、沢庵さんでした。そこの土産物屋へ奉公口を見つけてくれたのも沢庵さんです。――そして、男と女のことだ。これから先は知らないヨ、と謎みたいなことをいって、昨日も店でお茶を飲んでゆきました」

「アア。そうか……」

武蔵は、西の道を振向いた。たった今、別れた人と、いつまた、会う日があるだろうか。

今になって、さらに、沢庵の大きな愛を感じ直した。自分へだけの好意と考えていたのは自分が小さいからだった。姉へだけでもない、お通へも、誰へも、その大きな手は平等に行き届いていたのである。

三

(――男と女のことだ。これから先は、知らないよ)

そう沢庵がいい残して去ったと聞くと、武蔵は、心に用意していなかった重いものを、ふいに、肩へ負わされた気がした。

九百日、開かずの間で、眼を曝してきた尨大な和漢の書物の中にも、こういう人間の大事は一行もなかったようである。沢庵もまた男と女の問題だけは、われ関せず焉、と逃げた。