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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

七

武蔵は、暗然として、

(なぜ――やあ久し振だなあ――そんなふうに、彼は呼びかけてくれなかったのか)

と、思った。

「城太郎。おまえは、この人の住所を聞いたか」

「聞かなかった」

「居酒屋でも、知らぬか」

「知らないだろ」

「何度も来た客か」

「ううん、初めて」

――惜しい。武蔵は、彼の居所がわかるなら、これから京都へ戻ってもと思うのであったが、その術もない。

会って、もいちど、又八の性根をたたき醒ましてやりたい気がする。彼を、現在の自暴自棄から引ッぱり出してやろうとする友情を、武蔵は今も失っていない。

又八の母のお杉に、誤解を解いてもらうためにも――

黙々と、武蔵は先に歩いて行く。道は醍醐の下りになって、六地蔵の四つ街道の追分が、もう眼の下に見えて来た。

「城太郎、早速だが、おまえに頼みたいことがあるが、やってくれるか」

武蔵は、不意にいい出した。

七

「なに? おじさん」

「使いに行ってほしいが」

「どこまで」

「京都」

「じゃあ、折角、ここまで来たのに、また戻るの」

「四条の吉岡道場まで、おじさんの手紙を届けに行ってもらいたい」

「…………」

城太郎はうつ向いて、足もとの石を蹴っていた。