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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
「これは私の糊口すぎをする大事な品ですもの」
「じゃあ、お通様の職業は、笛吹きか」
「え……笛吹きという職業があるかどうかわかりませんが、笛のおかげで、こうして長い旅にも困らず過ごしておりますから、やはり、笛吹きでしょうね」
「祇園や、加茂宮でする、神楽の笛?」
「いいえ」
「じゃあ、舞の笛」
「いいえ」
「じゃあ何ンだい一体」
「ただの横笛」
庄田という武家は、城太郎が腰に横たえている長い木剣に眼をつけて、
「城太郎、おまえの腰にさしているのは何だな」
「侍が木剣を知らないのかい」
「なんのために差しているのかと訊くのじゃ」
「剣術を覚えるためにさ」
「師匠があるのか」
「あるとも」
「ははあ、その状筒の内にある手紙の名宛の人か」
「そうだ」
「おまえの師匠のことだからさだめし達人だろうな」
「そうでもないよ」
「弱いのか」
「あ。世間の評判では、まだ弱いらしいよ」
「師匠が弱くては困るだろ」
「おらも下手だからかまわない」
「少しは習ったか」
「まだ、なンにも習ってない」
「あはははは、おまえと歩いていると、道が飽きなくてよいな。……してお女中は、どこまで参られるのか」
「わたくしには、何処という的もございませぬが、奈良にはこの頃多くの牢人衆が集まっていると聞き、実は、どうあっても巡り会いたいお人を多年捜しておりますので、そんな儚い噂をたよりに、参る