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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
それだけには止まらない。やがて、城太郎は、彼方のひくい芝地の沢に見える一かたまりの人数が、ただ一人の武蔵を、刃の中に取り囲んで、針をつつんで吹く旋風のような光景を描き出すと、
「――畜生っ」
ふたつの拳と共に飛び上がり、
「卑怯だっ」
と、絶叫し、
「ええ、おいら大人ならば……」
と、地だんだ踏んで泣き出し、
「馬鹿っ、馬鹿っ」
と、そこらじゅうを駈けあるき、
「――おじさアん! おじさアん! おいらは、ここにいるよッ」
しまいには彼自身が、完全なる神さまとなり切って、
「――獣っ、獣っ、お師匠様を殺すと、おれが承知しないぞっ!」
ありッたけな声で、さけんでいたものである。
そして、そこからの遠目にも、彼方の真っ黒な斬り合いの渦中から、ぱッ、ぱッ、と血しぶきが立ち、一つ仆れ二つ仆れ、死骸が野にころがるのを見ると、
「ヤッ、おじさんが斬った。――お師匠様はつよいぞっ」
こんな多量な血しおを撒いて、人間同士が獣性の上に乱舞する実際を、この少年は、生れて初めて目撃したにちがいない。
いつか城太郎は、自分も彼方の渦中にあって、体じゅうを血で塗っているかのように酔ってしまい、その異様な興奮は、彼の心臓にもんどり打たせた。