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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
得意になって話している様子から察すると、何でもこの土地へ着くと早速、柳生家へ書面を持たせてやったものらしい。吉岡といえば、足利公方からの名門ではあり、今の石舟斎が宗厳といっていた頃から、先代の拳法とは多少の交わりもあったらしいので、柳生家でも捨ててもおけず、用人庄田喜左衛門に旅の見舞を持たせて、この旅籠へあいさつによこしたものと思われる。
その礼儀に対して、この若い都会人たちは、
(柳生も、如才ない)
とか、
(怖れをなして敬遠した)
とか、
(大した人物もいないらしい)
とかいう風に、自己満足な解釈を下して、得々と、旅の垢を洗っている――
今し方、親しく足で踏んで、小柳生城の外廓から、土俗人情を実地に見て来ている武蔵にとっては、彼らのそうした得意さと勝手な受け取り方が、笑止でならなかった。
井の中の蛙という諺があるが、ここにいる都の小せがれどもは、大海の都会に住んでいて、移りゆく時勢を広く見ているくせに、却って、井の中の蛙が誰も知らないうちに涵養していた力の深さや偉大さを少しも考えてみない。中央の勢力と、その盛衰から離れて、深い井泉の底に、何十年も、月を映し、落葉を浮かべ、変哲もない田舎暮らしの芋食い武士と思っているまに、この柳生家という古井戸からは、近世になって、兵法の大祖として石舟斎宗厳を出し、その子に