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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
円座
一
わ、わ、わ、わんッ
猛犬のほえる谺は、後ろの山を揺るがした。顔を抑えている両手の指のあいだから血がながれて来たので、城太郎は、逃げ転びながら、
「わアん――」
と、これも犬に負けない大声をあげて、泣き出してしまった。
円座
一
「行って参りました」
帰って来ると、城太郎は取り澄ました顔つきで、武蔵の前にかしこまった。
武蔵は、何げなく彼の顔を見て驚いた。碁盤の目みたいに顔中が傷でバラ掻きになっている。鼻なども、砂の中に落ちた苺みたいに血だらけなのだ。
さぞ鬱陶しいことだろうし、痛くもあろうに、それについては、城太郎がちっとも触れないので、武蔵も何も問わなかった。
「返事をよこしたよ」
庄田喜左衛門の返事をそこへさし出して、ふた言三言、使い先の様子を話していると、顔からぼとぼと血がながれてくる。
「ハイ。それだけです、もうよございますか」
「ご苦労だった」
武蔵が、喜左衛門の返書へ眼を落している間に、彼は、両手で顔を抑えて、あわてて部屋の外へ去った。
小茶ちゃんが、後ろから尾いて来て、心配そうに彼の顔をのぞいた。
「どうしたの、城太郎さん」
「犬にやられたんだ」
「ま、どこの犬」