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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
四
「そうらしい」
「じゃあ、喋舌ってばかりいないで、すこし、この鎌を持って下さい」
「おやすいこと」
「その間に、私は、お吟様の家へ行って、あした締める帯がもう縫えているかも知れないから、いただいて来ます」
「お吟様。アア、いつかお寺へ見えた婦人の邸か、おれも行くよ」
「そんな恰好で――」
「のどが渇いたのだ。お茶をもらおう」
四
もう女の二十五である、きりょうが醜いわけではなし、家がらはよいのだし、そのお吟に嫁入り話がないわけでは決してなかった。
もっとも、弟の武蔵が近郷きっての暴れんぼで、本位田村の又八か宮本村の武蔵かと、少年時代から悪太郎の手本にされているので、
(あの弟がいては)
と、縁遠いところも多少あったが、それにしてもお吟のつつましさや、教養を見こんで、ぜひ――という話は度々あった。しかしその都度、彼女の断る理由は、いつでも、
(弟の武蔵が、もうすこし大人になるまでは、わたくしが、母となっていてやりとうごさいますから――)
という言葉であった。
兵学の指南役として新免家に仕えていた、父の無二斎がその新免という姓を主家からゆるされた盛りの時代に建てた屋敷なので、英田川の河原を下にした石築き土塀まわしの家構えは、郷士には過ぎたものであった。