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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
四
――武蔵は、身の境遇の何かをも忘れて、
「何をするっ!」
縁の上へ、跳び上がった。
うしろから突いた拳が武士の後頭部に鳴った。手もなくお通を抱えたまま、相手は下に転げ落ちている。
お通が、高い悲鳴をあげたのも、その途端であった。
仰天した武士は、
「やっ、おのれは、武蔵じゃな。――武蔵だっ、武蔵が出てきた。各※(二の字点、1-2-22)、出で合えっ」
と、喚いた。
忽ち、寺内は足音や呼びあう声の暴風となった。武蔵のすがたを見たらばと、かねて合図してあったか、鐘楼からはごんごんと鐘が鳴った。
「素破」
と、山狩の者は、七宝寺を中心に、駈け集まった。時を移さず裏山つづき讃甘の山一帯をさがし始めたが、その頃、武蔵はどこをどう走って来たか、本位田家のだだっ広い土間口に立って、
「おばば、おばば」
と、母屋の明りをのぞいて、訪れていた。
四
「たれじゃ」
紙燭を持って、何気なく、お杉は奥から出てきた。
下顎から、逆さに紙燭の明滅をうけている窪の多い顔が、土気いろにさっと変った。
「あっ、おぬしは! ……」
「おばば、一言、告げに来た。……又八は戦で死んだのじゃない、生きている、或る女と、他国で暮している。