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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

武蔵は歯を咬み鳴らし、胸いたへ走って来た敵の槍の柄へしがみついた、相手を振りとばし、それを自分の物として握り直すと、

「こいつらっ」

無茶である、縦横に槍を振りまわして、撲るのだ。しかし大勢に対しては、これは効果がある、穂先を使わずに柄を使う槍術は、そもそも関ヶ原の実戦で彼は教えられたものである。

ぬかった! なぜ先に死に物狂いで、三、四人風呂場の中へこっちから飛び込まなかったかと、後手を悔いるように、捕手の武士たちは、叱咤を交わしあった。

十度ほど、大地を撲ると、槍は折れてしまった。武蔵は、納屋の廂の下にあった漬物樽の押し石をさしあげて、取りかこむ群れへ抛りつけた。

「それっ、母屋へ、跳びこんで行ったぞっ」

外から、人々がこう喚くと、一室からは、お杉だの分家の嫁だのが、跣のまま裏庭へころげ降りた。

家の中を、雷鳴があるいているように、何か、凄まじい物音をさせながら、武蔵は、歩いていた。

「俺の着物は、どこへやった、俺の着物を出せっ」

そこらには野良着が脱ぎすててあるし、手をかければ衣裳箪笥もあるが、眼もくれない。

血眼で、自分のつづれた着物を、やっと厨の隅に見つけ出すと、それを抱えたまま、土泥竈の肩に足をかけて、引窓から屋根へ這い出した。