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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
七
「条件とは」
「武蔵を縛め捕った上の処分は、この沢庵にまかすことだ」
「さあ、その儀は?」
と、どじょう髯は、そのどじょう髯をつまんで考えこんだが、この得態の知れない青坊主、或は、大言壮語だけで自分を煙に巻いている肚かも知れない。逆に出たらあわてて尻尾を出す奴だろう。そう考えたので彼は断乎として答えた。
「よろしい。貴僧が捕まえたら武蔵の処置は、貴僧に一任するといたそう。――その代り万一、三日のあいだに、縄にしてお出しなさらぬ時は?」
「庭の木で、こうする」
沢庵は、首を縊る手真似をして、舌を出して見せた。
七
「気でも狂うたのか、あの沢庵坊主、今朝聞けば、飛んでもないことを引き受けたちゅうぞ」
寺男は、心配のあまり、庫裡へ来てわめいていた。
聞く人々も、
「ほんまけ?」
眼をまろくして――
「どうする気じゃろ」
住持も、やがて知って、
「口は禍いの門とはこのことよ」
などと、賢そうに、嘆息した。
けれど誰より真実に心配し出したのはお通であった。信頼しきっていた許婚の又八から、ふいに受けた一片の去り状は、又八が戦場で死んだと聞くより大きな心の傷手であった。あの本位田家の婆様にせよ、やがて、良人とする人の母と思えばこそ、忍んで仕えている人である。