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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
程よい所に足をとめて、仰向くと、
「だまれっ」
武蔵の再びいう声だ。
元気というよりは怒気であった。
「死を怖れるほどならば、なんで神妙に貴さまの縛をうけるかっ」
「縛をうけたのは、わしが強くて、おまえが弱いからだ」
「坊主っ、何をいうか!」
「大きく出たな。今のいい方がわるければ、わしが悧巧で、おまえが阿呆――といい直そうか」
「うぬ、いわしておけば」
「これこれ、樹の上のお猿さん、もがいた所でこの大木へ、がんじ絡みになっているおまえが、どうもなるまい、見ぐるしいぞ」
「聞けッ、沢庵」
「おお、なんじゃ」
「あのとき、この武蔵が争う気ならば、貴様のようなヘボ胡瓜、踏み殺すのに造作はなかったのだぞ」
「だめだよ、もう間に合わん」
「そ! ……それを! ……自分から手をまわしたのは、貴様の高僧めかしたことばに巧々と騙かられたのだ。たとい縄目にはかけても、このような生き恥をかかせはしまいと信じたからだ」
「それから――」
と沢庵は嘯いた。
「だのに、なぜ! なんで! ……この武蔵の首を早く打たないかっ……同じ死所を選ぶなら、村の奴らや、敵の手にかかるより、僧でもあるし、武士の情けもわきまえていそうな貴様に――と思って体を授けたのがおのれの誤りだった」