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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
うしろへ廻って、いやおうなく武蔵の体へ、着せかけてくれる。
迷惑なほど、それは贅沢な品だった。わけても袖無羽織は、舶載の織物らしく、豪華な模様に金襴の裾べりを縫い、裏には羽二重をつけ、紐にまで細かい気をつけて、葡萄染めの革がつかってある。
「ようお似あいになります」
後家と共に、城太郎も見惚れていたが、無遠慮に、
「おばさん、おらには、何をくれるの」
「ホホホ。だって、あなたはお供でしょう、お供はそれでいいじゃありませんか」
「着物なんか欲しくねえさ」
「何か望みがあるんですか」
「これをくれないか」
次の間の壁に掛けてあった仮面をいきなり外して来て、もうゆうべ一目見た時から欲しくてならなかったもののように、
「これを、おくれ」
と自分の頬へ、仮面の頬をすりつけていった。
武蔵は、城太郎の眼のするどさに驚いた。実は彼も、ここに寝た晩から心をひかれていた仮面なのである。誰の作かわからないが、時代は室町ではない、少なくも鎌倉期の作品であって、やはり能につかわれた物らしく、鬼女の顔が、すごいほど鑿の先で彫り出されている。
それだけなら、まだそう心を奪われもすまいが、この仮面には、他のありふれた能仮面とちがって、不思議な表現が打ちこめてある。