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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
団八は、武蔵の左へ左へと、特に意識して並んで歩いていた。所々に、杉や槙などの樹がぽつねんと孤立しているほか、野の視野は何里となく広かった。ただ大きな起伏が低い丘を描き、そこを縫う道に多少のゆるい登りや降りがあるだけである。
般若坂に近いころであった。その一つの丘の彼方から、誰か、焚火でもしているらしく茶褐色のけむりが見える。
武蔵は、足を止め、
「はてな?」
「何が」
「あの煙」
「それがどうしたのでござる」
団八は、ぴったり寄り添っている。そして武蔵の顔いろを見る彼の顔いろが、やや硬ばる。
武蔵は指さして、
「どうもあの煙には妖気があるように思う。貴公の眼には、どう見えるな」
「妖気というと?」
「たとえば」
と、煙へさしていた指を、こんどは団八の顔の真ン中へさして、
「汝のひとみに漂っているようなものをいう!」
「えっ」
「見せてやるっ、このことだっ!」
突然、春野のうららかな静寂をやぶッて、キェッ――という異な悲鳴が走ったと思うと、団八のからだも向うへ飛び退き、武蔵の体もうしろへ刎ね返っていた。
何処かで、
「あっ――」
と驚いていう者があった。
それは二人が越えて来た丘のうえにチラと今、影を見せて此方を見ていた人間である、それも二人連れであった。