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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
「いいけど、そんなかっこうじゃ駄目ですよ」
「じゃ嫌だよ。そんな窮屈なところへなんか、行ってやるもんか」
それで助かったような気がしてお通はほほ笑みながら、城内へ入った。
厩へ馬をもどし、石舟斎の草庵へ帰って、使い先のもようを話すと、
「そうか、怒ったか」
石舟斎は笑って、
「それでいい。怒っても、つかまえどころがあるまいからそれでいい」
といった。
しばらく経って、何かほかの話の折に思い出したのであろう。
「芍薬は、捨てて来たか」
と訊いた。
旅宿の小女に与えて来たというと、その処置にもうなずいて、
「だが、吉岡のせがれ伝七郎とかいう者、あの芍薬を、手には取って見たろうな」
「はい、お文を解く時」
「そして」
「そのまま突き戻しました」
「枝の切り口は見なかったか」
「べつに……」
「何も、そこに眼をとめて、いわなかったか」
「申しませんでした」
石舟斎は、壁へいうように、
「やはり会わんでよかった。会って見るまでもない人物。吉岡も、まず拳法一代じゃ」
四高弟
一
荘厳といっていいほどな道場である、外曲輪の一部で、床も天井も、石舟斎が四十歳頃に建て直したという巨材だ。ここで研磨した人々の履歴を語るように、年月の古びと艶を出していて、戦時には、そのまま武者溜りとして使えるように広くもあった。