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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens

Aozora Bunko

人影は陣太刀を横たえ、半具足で手足をかためている、この村に見かけない堂々とした武士である。

「そちは、今、新免家から出て来たな」

「はい、左様でござりますが」

「新免家の者か」

「とんでもない」

あわてて、手を振った。

「わしは、河向いの郷士の隠居」

「では、新免武蔵と共に、関ヶ原へ戦に出た本位田又八の母か」

「されば。……それも伜が好んで行ったのではなく、あの悪蔵めに騙されたのでおざりまする」

「悪蔵とは」

「武蔵のやつで」

「さほどに、村でもよくいわぬ男か」

「もうあなた様、手のつけられぬ乱暴者でござりましての、伜があんな人間とつき合うたため、わたしどもまで、どれほど泣きを見たことやら」

「そちの息子は、関ヶ原で死んだらしいな。しかし、悔やむな、敵はとってやる」

「あなた様は?」

「それがしは、戦の後、姫路城の抑えに参った徳川方の者だが、主命をおびて、播州境に木戸を設け往来人を検めていたところ、此邸の――」

と、うしろの土塀を指さして、

「武蔵と申す奴が、木戸を破って逃げおった。その前から、新免伊賀守の手について、浮田方へ加担した者とわかっているゆえ、この宮本村まで追いつめて来たところじゃ。