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しんらん
親鸞
吉川 英治
Read 親鸞 (しんらん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 566,138 characters · 1127 screens
――それとも、旧友文覚にも、洩らせぬほどの大事か」
「ちと、言い難い」
「では聞くまい」
「怒ったか」
「ム、怒った」文覚は、わざと、むっとして見せたが、すぐ白い歯を剥きだして、
「そういわずと、話せ。法衣は着ても、性根は遠藤盛遠、決して、他言はせぬ」
「…………」弥太は、立って、堤のあなたこなたを、見まわしていた。頭に物を乗せた大原女が通る。河原の瀬を、市女笠の女が、女の使童に、何やら持たせて、濡れた草履で、舎人町の方へ、上がってゆく。
ほかには、蝉の音と、水のせせらぎと、そして白い水鳥の影が、気だるく、淀に居眠っているだけである。
「盛遠」坐り直すと、
「わしの名は、文覚。盛遠は、十年も前に捨てた名まえ、文覚と呼んでくれい」
「つい、口癖が出てならぬ。ならばついでに、俺の変名も、おぼえておいて、もらおうか」
「ほ。名を変えたか」
「旅商人が、堀井弥太では、おかしかろう。――一年に一度ずつ京都へ顧客廻りに来る、奥州者の砂金売り吉次とは、実は、この弥太の、ふたつ名前だ」
「え。吉次」
「そう聞いたら、何か、思いだしはせぬか」
「思いだした。……おぬし、鞍馬の遮那王様へ、密かに、近づいているな」