Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
わたしはここで絵葉書を買って記念のスタンプを捺して貰いました。東京の友達にその絵葉書を送ろうと思って、衣兜から万年筆を取り出して書きはじめると、あたかもそれを覗き込むように、冷たい霧は黙ってすうと近寄って来て、わたしの足から膝へ、膝から胸へと、だんだんに這い上がって来ます。葉書の表は見るみる湿れて、インキはそばから流れてしまいます。わたしは癇癪をおこして書くのをやめました。そうして、自分も案内者もこの家も、あわせて押し流して行きそうな山霧の波に向き合って立ちました。
わたしは日露戦役の当時、玄海灘でおそろしい濃霧に逢ったことを思い出しました。海の霧は山よりも深く、甲板の上で一尺さきに立っている人の顔もよく見えない程でした。それから見ると、今日の霧などはほとんど比べ物にならない位ですが、その時と今とはこっちの覚悟が違います。戦時のように緊張した気分をもっていない今のわたしは、この山霧に対しても甚だしく悩まされました。
二人がここを出ようとすると、下の方から七人連れの若い人が来ました。磯部の鉱泉宿でゆうべ一緒になった日本橋辺の人たちです。これも無論に案内者を雇っていましたが、行く路は一つですからこっちも一緒になって登りました。