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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

会場は役所の広間で、女の収容者たちもいっしょに出た。講話はむずかしいものではなく、故事や逸話を引用した処世訓のようなものだったが、人足たちはみないやがって、番たび督促しなければ出ようとはしなかった。女たちの中にちょっとでもみられるのがいると、進んで聞きに出る者もいるが、そんなときは講話など聞きながし、もっぱらその女を眺めるだけなので、教師のほうでそういう女の出ることを拒むようであった。

三月五日の夜の講話に、栄二は役所詰元締役の岡安喜兵衛から、特に指名されて出た。一日おきの入浴日に当っていたので、湯あがりのぐったりした気分ではおっくうだったが、特に指名されたし、これまで一度も出たことがないから、やむなく彼は聞きにいった。――その広間は三十帖ばかりの広さで、役所の南側にあり、中庭に面した縁側からあがるようになっていた。男は栄二のほかに十四、五人、女たちも同じくらいいたろうか。両者は広間の左右にわかれて坐り、その中央に教師の席があった。

立松伯翁は肥えた老人で、としはおよそ六十歳。禿げた大きな頭も、はちきれそうなまるい顔も、茶色にあぶら光がしてい、厚い大きな唇はきみの悪いほど赤かった。