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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
七の二
七の二
或る夜。与平は、茶を淹れて、駄菓子の袋をあけ、栄二のほかに二人呼んで、世間話を始めた。――寄場人足は月に四百文から一貫文までの賃金が与えられ、必要費があればその半分は自由に使うことができる。残りの半分は役所で預かっておき、島を出るときに渡される、ということはまえに記したが、――そのためここでは、与平のように茶菓のたのしみぐらいはできるのであった。
そのとき茶話に加わった二人は、ご一、伊助という中年者で、どちらも三十四、五だろう、ご一は百姓部屋、伊助は彫物部屋の者であった。
「わしゃあこの寄場へ来てから、もう五年の余になるが」とご一が云った、「――二度と再びしゃばへ戻ろうとは思わねえ、一生ここでくらして、ここで骨になるつもりだよ」
「そうきめたものでもないのさ」と与平が話をひきだすように云った、「火傷をしたからって火を恐れても、生きていくにはやっぱり火がなくっちゃあ済まないもんだよ」
「まあね、火に譬えればそうだろうがね」とご一はゆっくり頷いた、「――どんなとんまな人間でも、やがて火の使いようぐらいは覚えるだろうが、世間のからくりや、悪知恵のある人間にはかなわねえ、牛か馬のようにこき使われて、腰の骨のおっぴしょれるほど働いたあげくが、家も田畑も取られてしまうんだからな」