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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「おめえいったいなに者なんだ」と男が云った、「さっきは海を見に来ただけだと云ったが、本当はそれだけじゃあねえな」

「悪かった、おれが悪かった」栄二はそう云いながらうしろへさがった、「どうやらなにか聞き違えたらしい、邪魔はしないよ、おれはもう帰るから勘弁してくれ」

そしてゆっくり歩きだした。

畑のあいだを戻ってゆくと、どこに隠れていたのか、万吉が出て来て肩を並べた。いまのを聞いたか、と栄二が云った。うん聞いた、わけがわからねえ、と万吉は首を捻った。

「おめえは騙されたんだ」

「そんな筈はねえんだ」と万吉が云った、「松つぁんはそんな男じゃあねえんだから」

「いま見たことはどうだ」

「だからわけがわからねえ」万吉は首をかしげながら云った、「さっき話したことは松つぁんばかりじゃあねえ、あのおとよって女からも聞いたんだ、あたしたちではどうにもならない、なんとかこぶを近よせないようにはできないものだろうかって」

栄二は振り向いて万吉を見た、「それがいまあそこにいた女か」

「おれは幾たびも話したことがあるんだ」

栄二はこぶの巨躯と、当惑したような口ぶりを思い返しながら、おまえはいい男だよ、と万吉に向って云った。