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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「あとで」とおそのがきめつけた、「姉さんてばいつでもあたしのまねばかりするのね、邪魔しないでよ」

栄二は着物をひろげてみて、きれいだなと云った。これだけ大きな資産家の娘なら、京染めの友禅ぐらいなんでもないだろうのに、わざわざ人を呼んで見せるところに、この姉妹の気取らない、下町っ子らしい開放的な性質がよくあらわれていた。

妹に決めつけられた姉のおきみは、きげんを悪くするでもなく、そろそろと自分の箪笥をあけた。その裾模様というのを出すつもりであろう、けれどもおそのはそれより早く、こんどは帯を見せてあげる、と云いながら、下の抽出をあけたとたん、悲鳴をあげてとびあがり、両手で栄二に抱きついた。

「こわい」とおそのは栄二にしがみつきながら叫んだ、「鼠よ、鼠がいるのよ」

おきみも吃驚してうしろへさがり、栄二はおそのの腕を放そうとした。だがしがみついたおそのの力はおどろくほど強く、すぐにはふり放すことができなかった。

「放さなくっちゃだめだ」と栄二が云った、「それじゃあ鼠が追えやしないよ」

「いや、こわい」とおそのはもっと腕に力をいれた、「あたし息が止りそうよ」

「鼠を追っぱらうんだから」