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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「――女衒の六ですって」

「ここでは次郎吉と名を変えてた」と云って彼は向き直った、「なかまに追われてたって聞いたが、あいつは江戸から逃げだしたんじゃあなく、この寄場へもぐり込んでいたんだ」

「そして、――人を助けたんですって」

「助けようとして溺れ死んだんだ、おれは知らねえが幾人もそれを見た者がいる、――あの人でなしの六がだぜ」

おのぶはふた息ばかり栄二を見ていて、それからきいた、「どうして六だとわかって」

「話してる口ぶりで気がついたんだ、それから」と云いかけたが、彼は首を振った、「――人間てやつはときによって、どんなことをするか予測のつかねえもんだと思ったよ」

「そうね、――それでもここから出れば、たぶんまた人を泣かせたでしょうにね」おのぶはそう云って溜息をついた、「でもあたしには本当とは思えないわ、あいつはしんそこげじげじで、昔っから首くくりの足を引張るようなまねしきゃできない男だったのにね」

「いまは小塚っ原の無縁墓だ」と栄二はまた窓の外へ眼をやりながら云った、「――げじげじなんて云われるほどあくどいことをしても、結局いいめは出なかったんだな」

おのぶは黙って自分の膝を見ていた。