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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

をしようとすればできるかもしれないし、うまくできれば栄さんの気は晴れるでしょ、栄さんの気持だけはね」と云っておのぶは眼をきらきらさせた、「――けれどもそのとき、さぶちゃんはどうなるの、おすえさんはどうなると思うの」

栄二はまだ腕組みのままで、かなりながいこと身動きもしなかった。

「なにかが始まると」と云いかけた栄二は、大きな咳をして、組んだ腕を解き、片手で膝を撫でながら云った、「――それを終らせるのは容易なこっちゃねえな」

「終らないものにかかりあうことはないでしょ、いますぐにとは云わないけれど、仕返しなんていうつまらないことより、栄さんのために苦労もし心配もしている人たちのことを考えてちょうだい」

栄二は立ちあがって窓のところへゆき、暫く外を眺めていた。そっちは北側で、伸びあがれば大川が見える。八月の晴れた空に、眩しいほど白い雲が幾つか浮かび、それを背景に、ごみのようなものが飛んでいると思ったら、赤蜻蛉の群れであった。

「女衒の六は死んだよ」と栄二はおのぶに背を向けたままで云った、「このまえの大あらしのときに、船から落ちた年寄りを助けようとして溺れたんだそうだ」