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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
十の一
万吉はその眺めに千両二分という値をつけた。二分とはなんのことだ、と側にいた男がきいた。千両はとおり相場だから、おれはそれに二分だけ掛けたんだ、と万吉ははらの太いところをみせた。
七月のあらしがあってから、寄場の中にはそれまでにない、なごやかで親密な気風がうまれたようであった。それに反して、栄二はまた口数が少なくなり、誰が話しかけても相手にしないし、諄いことを云うとどなりつけるか、そっぽを向いてよそへいってしまうかする。そして、いつもできるだけ独りでいようとするのであった。
おすえは月に三度、一日、十一日、二十一日の、休みごとにたずねて来たが、栄二は会わなかった。その後は岡安も諦めたのか、しいて会わせようとはせず、差入れの品だけを部屋へ届けてよこした。栄二はそれを部屋の者に与え、自分では手もつけず、なにがはいっているのか見ようともしなかった。――休みの日には、栄二はきまったように南の海辺へゆき、岸に近いところの草の上へ腰をおろしたり寝ころんだりして、殆んど一日をすごすのが例になった。
「さぶか、ばかなやつだ」彼は唇を歪めながら呟く、「頼みもしねえのに、おれのことでうろうろして、十年の余も勤めた店から暇を出されやあがった、こんどこそおれの気持がちっとはわかったろう」