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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

山城河岸の外科医は中島坦庵といって、南蛮流とオランダ流の医学に通じ、外科では当代五指の内にあげられるということであった。――中島は前後三回やって来、滝本にあとのことを指示すると、もうこれでよかろうと云って去り、その後は二度とあらわれなかった。

「少しは跛をひくことになるかもしれない」と中島坦庵は最後のときに云った、「――あとは当人の若さが頼みだ、まあ五十日は足を使わんことだな」

そして、少し跛をひいてあるくのもなかなかだてなもんだぞ、と云って笑った。

二日間は白湯だけ、三日めから葛湯になりおも湯になったが、五日めに半粥が出されたとき、栄二はまた嘔吐した。半粥をひと口入れたとたん、死んだ魚や貝類や、腐ったごみや海草の蒸れたのが、海水の匂いと入混って激しく匂い、いま口へ入れた物はもちろん、胃の中の分まで吐いてしまった。あとで胸がおちついてからよく考えると、それは実際には悪臭が匂ったのではなく、石に敷かれたときの恐怖感がよみがえったものらしい、ということがわかった。口の中へ流れこんだ水は、塩となにかの味がしたようだ。けれども腐った魚や貝類や、干あがった海草の匂いなどはなかった。