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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
栄二はまた俯向いた。
「へえ会います」と彼はやがてそう答えながらおじぎをした、「ご面倒をかけて申し訳ありません」
ではと云って岡安は立っていった。与平は掛夜具を折って、栄二の背中へ当ててやり、寝衣の乱れを直してやったりした。――さぶは包みを抱えてはいって来、左へ右へとむやみに頭をさげ、なにやら礼のような、詫びごとのようなことをもぐもぐ云った。
「どうぞあがって下さい」与平は手を振りながら云った、「構いません、遠慮はいりませんからどうぞ」
そして老人は思いだしたように、向うから半屏風を二枚持って来て、栄二の寝床を囲った。病人は三人いたが、あいだはかなりはなれているし、こっちを見るようなこともないだろうが、与平としては気をきかせたつもりに相違ない。さぶはそれにも恐縮しながら、腰を跼めてすり寄った。すり寄って来て包みを脇に置き、恐ろしいものでも見るように、おずおずと栄二を見あげて、頬笑もうとした。
「栄ちゃん」と吃りながらさぶが云った、「さぞ、――苦しかったろうな」
同時にさぶの顔がだらしなく歪み、その小さなまるい両眼から、大きな涙が続けさまにあふれ落ちた。