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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

さぶが戻って来て、おずおずと坐っても、栄二は眼をつむったままでいた。

「その」とさぶが云った、「――足のぐあいはどうなんだね、栄ちゃん」

「跛になるそうだ」

「まさか」とさぶは息を引いた、「まさかそんな、跛になるなんて」

「だてなもんだそうだぜ」と云ってから、栄二は自分を抑え、眼をあいて微笑した、「――まだそうときまったわけじゃあねえが、跛になるかもしれねえっていう、医者のみたてなんだ」

さぶは口をあいたまま、なにも云わずに栄二の顔を見まもった。

「驚くこたあねえさ、その代り命びろいをしたんだから」と栄二は云った、「おまけにこっちは居職だ、ちっとばかり跛になったって、しょうばいにゃあ差支えはねえからな」

さぶは急に頭を垂れ、右手で眼を押えたとみると、声を忍んでむせびあげた。

「ひでえ」とさぶは嗚咽しながら云った、「そりゃあひどすぎるぜ」

「その代り命びろいをしたと云ったろう」

「それにしたって、栄ちゃんが跛になるなんて、そんなことがあっていいだろうか」

「よせ、人に聞えるぜ」栄二が低い声で制止した、「――とにかく死なずに済んだんだ、跛になるとはっきりきまったわけじゃあねえ、いまはそんなことを忘れて、おめえのことを聞かしてくれ、え、おめえまだ葛西にいるのか、そうじゃあないのか、どっちなんだ」