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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

十一の一

「いちいちおれを引合いにだすなよ」と栄二が云った、「おれはこの寄場に大きな借りができたんだ、ちっとやそっとで出られやあしねえから、おれのことは考えねえでやってくれ」

さぶはまるい眼をみはり、口をあけて栄二を見た。

「だって栄ちゃん」とさぶは唾をのみこんでから云った、「おめえいつか、おれといっしょに、そうじゃねえ、おめえが店を持つときには、おれを糊の仕込みに使ってくれるって、約束したじゃあねえか」

「それはしゃばにいたときのことだ」と云って栄二はそっぽを向いた、「――いまのおれは寄場人足なんだぜ」

十一の一

「よう、起きてるな」と云ってこぶの清七がはいって来た、「もうあるいてもいいのか」

「まだまだ」と与平が云った、「みんなでそうせかしちゃあだめだ、そうでなくっても当人はじれったがっているんだから」

「だって昨日こっちへ移ったっていうそうじゃねえか、病人置場を出たんなら、医者の手ははなれたんだろう」

栄二は右足を投げだして坐り、めしを喰べていた。ちょっとぶしょう髭が伸びているし、日光に久しく当らないので顔色はなま白く、肉もたるんだように見えるが、治療を始めてから三十日以上も経ち、躯そのものは恢復したのだろう。