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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

杖を渡しながら清七が云った、「長かったら切ればいいと思ってね、そう、そこを腋の下へ当てるんだ」

「立っちゃだめだよ」と与平が注意した。

「おれもどこかで見たことがある」栄二は上り端に坐って両足をそろそろと土間へおろし、杖を持ち変えて横木のところを腋の下へ当ててみた、「――よさそうだな、しっかりしている、なんの木だろう」

「桜なんだよ」と清七が答えた、「いろいろ当ってみたんだが、撓うのも困るし重くっても困るし、それで彫物部屋の伊助さんに相談したんだ、あの人は木をいろいろ知ってるだろうと思ってさ、そうしたら桜がいいだろうって云うもんだから」

「みんなに心配かけちまうな」

「すぐに使わなくてもいいようになるだろうがね」と云って清七は意味もなく片手を振った、「そうだとしても、はじめのうちはいるかもしれねえと思ったんでね」

「さあ、もういい」与平が手を出した、「使うようになるまで私が預かっとくよ」

栄二は杖を与平に渡した。

「じゃあ」と清七はあとじさった、「おら仕事の途中だから」

栄二がもういちど礼を云い、清七は帰っていった。与平が撞木杖を持ってゆき、自分の戸納の中へしまい込むのを眺めながら、栄二は息を静かに長く吸い、それを用心ぶかく吐きだした。