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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

さぶは赤くなり、ふところからたたんだ手拭を出して、額を拭き、頸を拭いた。

「おら、汗びっしょりだ」

「きざなことを云って済まなかった」栄二は手紙を巻きながら云った、「――人間には誰にも、自分では気づかない能があるらしい、おらあここへ来てそこそこ一年になるが、そのあいだにいろいろな人間や出来事をみてきた、寄場はしゃばと違って、無宿人や牢から出て来た者ばかり、ひとくちに云えば世間からはみ出た人間だ、けれども、いっしょにくらしてよく見ていると、うすのろとかぐずとか、手に負えない乱暴者とか云われる人間が、それぞれみんないいところを持っている、誰にもまねのできねえような立派な仕事をする者も幾人かいるよ、生れつきの悪党か気違いでない限り、人間にはみんな備わった能があるんだ、棟梁だからえらくって叩き大工だから能なしだなんてこたあねえ、ぼてふりの魚屋にだって、八百松の板前より庖丁のうまい人間がいるかもしれない、おらあここで一年くらしてみてそう思ったんだ、さぶ――おめえいつまでも卑下ばかりしねえで、じっくりとよく自分をみてみるんだな」

さぶはのろくさした手つきで包みを解き、晒木綿を切った下帯の束をこっちへ置き、三つの折詰を持って部屋の中を見まわした。