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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
十二の六
「いつかおれたちもいったっけ」とさぶが眩しそうに眼をそばめて云った、「――三月の大汐のときだったな」
「川崎の大師からまわったんだ」と云って栄二はさぶに振り向いた、「――うちを持つのは勝手だが、おれを当てにしねえでくれよ」
十二の六
さぶは困惑したように、包みを抱え直しながら、自分の足もとを見た。
「このまえにも云った筈だ」と栄二はさらに続けた、「おれはこの寄場で、口では云えないほどの厄介をみんなにかけた、それを返すまではここから出るわけにはいかないんだ」
さぶはちょっとまをおいて云った、「おら、いままで岡安さんと話して来たんだが」
栄二はさぶの顔をみつめた。
「岡安さんは」とさぶはまだるっこい口ぶりで続けた、「栄ちゃんはここから出るほうがいいって云ってた、これまでは口止めをされてたんで云わなかったが、北町奉行の与力で青木さんていう人も、栄ちゃんのことを心配して、たびたびここへたずねて来るそうなんだ、ここでは岡安さんが毎月一度、栄ちゃんのようすを書いて青木さんに送っているんだが、青木さんはそれを自分で慥かめに来るらしい、そして青木さんも同じように、もう寄場から出してやるほうがいいって、云ってるそうなんだよ」