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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「お願いだ、助けてくれ」りゅうは倒れたまま、両手で頭を抱えながら叫んだ、「もう勘弁だ、誰か助けてくれ、死んじまうよう」

だが栄二は力をゆるめなかった。りゅうもまた見るまに血まみれになり、動かなくなった。栄二は殴るのをやめ、義一のほうを見た。義一は俯伏せになり、流れだす自分の血に顔を浸したまま呻いていた。

「――さあ」と栄二は博奕をしていた集りのほうへ呼びかけた、「もうすぐに役所から来るだろう、ほかの部屋の者はいまのうちに帰ってくれ、早くしないとかかりあいになるぞ」

十五、六人いた集りの中から、半数以上の者が立ちあがり、怯えたように土間へとびおりると、はだしのまま戸口から逃げだしていった。

「与平さん」と栄二が云った、「万の字は役所へいったか」

「いったよ」と与平が答えた。

そのとき戸口から小島良二郎がはいって来た。彼は走って来たとみえ、肩で息をしながら部屋の中を見まわし、のびている義一とりゅうの姿から、栄二へと眼を移した。

「私がやりました」と栄二は云った、「いま役所へ届けたところです」

小島の顔が硬ばり、なにか云おうとして口をあいたが、ものは云わずに刀を抜いた。