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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
二の三
「なんだかさっぱりわからないわ、まるでいやみを云われてるような感じよ」
「済まねえな、話を変えよう」と云って栄二はおのぶに盃を差出した、「おめえも一つ飲まねえか」
「あたし強いのよ」
「いいとも、もう一つ盃を持って来な」
「いま持って来るわ」差された盃を返しておのぶは立ちあがった、「でも、まだ早いんだからあんまり飲まさないでね」
「こっちのふところが続かねえよ」と栄二はおのぶのうしろ姿に向って云った、「なにか自分の喰べるものもそういうんだぜ」
おのぶは土間へおりてから振り返り、栄二の顔をじっとみつめながら、「ありがと、いただきます」と云った。
二の三
五月に和助が芳古堂を出て、浅草の東仲町に「香和堂」という自分の店を持ち、十五歳になる小僧の半次をもらっていった。そのまえに卯吉、定という二人の小僧がはいっていたし、秋までは店もひまなので、半次を付けてやったのであった。
栄二とさぶは、休みの日になると「すみよし」へかよった。どうやらさぶはおのぶが好きになったらしく、なんとか口実をつくっては手土産を買ってゆくが、自分ではそうする勇気がないのだろう、栄二に頼んで渡すのが例になっていた。