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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

おのぶはその包みを見るなり、崖から落ちでもしたように昂奮からさめ、けだるそうにおくれ毛を掻きあげながら、そっとはにかみ笑いをした。

「あたし酔ったのね、ごめんなさい」おのぶはちょっと舌を出し、首をすくめた、「おすえさんが気をもんでるわ、早く帰っておあげなさいよ」

「のぶ公、大丈夫か」

「でなくってよ」おのぶは前帯を叩いた、「それからね、これは云う必要もないと思うんだけれど、ここのおかみさんにこれができたの」

おのぶは右手の拇指を立ててみせた。

「その相手を誰だと思って」

栄二はおのぶの表情を読み取った、「――例の、板前の徳さんか」

「あたしもう剃刀を持たなくってもよくなったの、でもふしぎなもんね」おのぶは肩をちぢめた、「あの人がおかみさんとそうなったら、こんどは自分の男を取られたような気がするんですもの、女ってへんなもんだと思うわ」

十五の五

坂本二丁目へ帰った栄二は、おすえになにを云う暇も与えず、いきなりすみよしであったことを話した。まるで咎人が申開きをするようだなと、話しながら自分でも苦々しい気がしたが、おすえの顔は見るまに明るく、いきいきとしてきた。