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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
四
真の英雄とゆるされる者はご辺と我ぐらいなものであろう――と語ったそうだが、その一方の御身が、先頃からこの荊州に来ていてくれるので、この劉表もどんなに心強いか知れぬ」と、いった。
玄徳もその日は、いつになく感傷的になっていたので、
「曹操如き何かあらんです。もし私が貧しくも一国を持ち、それに相応する兵力さえ持てば……」
と、つい口をすべらせかけたが、ふと劉表の顔色が変ったのに気づいて、後は笑いにまぎらして、わざと杯をかさねて大酔したふりをしてそこに眠ってしまった。
四
横になると、手枕のまま、玄徳はもう大いびきをかき始めた。寝よだれを垂らして眠っている。
「……?」
劉表は、猜疑に囚われた眼で、その寝顔を見まもっていた。自分の住居の中に、巨大な龍が横たわっているような恐怖をおぼえたのである。
「やはり怖ろしい人間だ!」
彼もあわてて座を立った。
すると、衝立の陰にたたずんでいた妻の蔡夫人が、ふと寄り添って囁いた。
「あなた、いまの玄徳のことばを、何とお聞きになりましたか。常には慎んでおりましても、酔えば性根は隠せません。本性を見せたのです。わたしは、恐ろしさにぞくぞくしました」