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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
うかと、そのあとで云いたした。
「ごもっともでござる」
と、関羽も同意だったので、周倉のまえに戻ってくると、気の毒そうに云い渡した。
「ご簾中には、云々のおことばでござる。――ここはひとまず、山寨へ帰って、またの時節を待ったがよかろう」
「至極な仰せ。――身は緑林におき、才は匹夫、押して申しかねますなれど、きょうの日は、てまえにとって、実に、千載の一遇といいましょうか、盲亀の浮木というべきか、逸しがたい機会です。もはや一日も、悪業の中には生きていられません」
周倉は、哭かんばかりにいった。真情をもって訴えれば、人をうごかせないこともあるまいと、縷々、心の底から吐いてすがった。
「……どうか、どうか、てまえを人間にして下さい。いま将軍を仰ぐこと、井の底から天日を仰ぐにも似ております。この一筋のご縁を切られたら、ふたたび明らかな人道に生きかえるときが、あるや否やおぼつかなく思われます。……もし大勢の手下どもを引き具してゆくことが、世上にはばかられての御意なれば、手下の者は、しばらく裴元紹にあずけ、この身ひとつ、馬の口輪をとらせて、おつれ願いとう存じまする」
関羽は、彼の誠意にうごかされて、ふたたび車の内へ伺った。