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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

三

待つことかくの如く神妙であるが、いかにご辺を向けられても、関羽はまだご辺の手にかかって生捕られるわけには参らん。さてさてつらき御命をうけて来られたもの哉――」

と、はや小脇の偃月刀を持ち直して身がまえた。

「否、否、疑うをやめ給え」と、張遼はあわてて弁明した。

「身に甲を着ず、手に武具をたずさえず――拙者のこれへ参ったのは、決して、あなたを召捕らんがためではない。やがて後より丞相がご自身でこれに来られるゆえ、その前触れにきたのでござる。曹丞相の見えられるまで、しばしこれにてお待ちねがいたい」

三

「なに。曹丞相みずからこれへ参るといわれるか」

「いかにも、追ッつけこれへお見えになろう」

「はて、大仰な」

関羽は、何思ったか、駒をひっ返して覇陵橋の中ほどに突っ立った。

張遼は、それを見て、関羽が自分のことばを信じないのを知った。

彼が、狭い橋上のまン中に立ちふさがったのは、大勢を防ごうとする構えである。――道路では四面から囲まれるおそれがあるからだ。

「いや。やがて分ろう」

張遼は、あえて、彼の誤解に弁明をつとめなかった。まもなく、すぐあとから曹操はわずか六、七騎の腹心のみを従えて馳けてきた。