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うえすぎけんしん
上杉謙信
吉川 英治
「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页
さだめしよい年ばえになっていましょうな。さりとて、見たい気もいたさぬ。おる所にいさせて天意におまかせしておこう。元々、迷い子にした子でござれば」
「さて、気づよい親御どのではある。そのお子が、いるところにおるなれば、それも宜しかろうが、それがしの知るところでは、鶴菜どのはもう越後にいません。それもごく近日越後を脱して、親兄弟のいる空へ帰りかけた。だが、惜しいかなまだ甲州の地を踏まぬうちに、ここらあたりでまたはぐれたらしい。こんどは真の親御の手に拾い上げられてほしいと念じていることであろう」
「なに、このあたりで――」と、伝右衛門は思わず杯を下に置いた。そのとたんにまた彼は人の子の父になっていた。断っても断っても断ちきれないものに繋がれている自分をもがくように膝をすすめた。
「……ほんとでござるか、それは。いま仰せられたことは」
「何で、このような戯れを、この際に」
「ど、どうして、彼娘がこのあたりになど」
「仔細は存ぜぬ、しかし昨夕、千曲川の向う河原に、どこからともなく彷徨うて来た旅の女がいました。馬糧を刈っていた武田方の軍夫に道でもたずねているふうであった。