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うえすぎけんしん

上杉謙信

吉川 英治

「週刊朝日」1942(昭和17)年1月4日号~5月24日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,102 字 · 256 页

青空文庫

君と我とは

ただし先の欠乏につけこんで、暴利をむさぼる惧れがある。価格はすべて越後値段に限ることを厳命し、平価をこえることなきように致せ」

君と我とは

国境をこえて、限りなく塩が入って来たという。

甲州の百姓は生色をとり回した。町々はどよめいた。商賈は眼の色を変えて塩を頒け歩いた。塩を見たものはその白いものを一握り握ってみて、

「ありがたい」

と、涙した。塩を拝んだ。

郷社の神前にも、塩があげられた。煌々と神灯がついた。

――こういう状況をつぶさに聞いては、躑躅ヶ崎の館にあった信玄も、眼を熱うせずにいられなかった。が、彼は、

「……そうか」

とのみで一言もまだそれに就いての是非、感激をも、また批判をも口から吐かないのであった。

「……?」

むしろ彼は初めのほど、苦痛に似た顔つきをあらわしていた。次に懐疑的に見えた。ちょうど、過ぐる永禄四年の大戦に、謙信が捨身の戦法に出て、その不可解なる妻女山の陣をながめたときのように、信玄は心の霧につつまれていた。

そこへ、一書が到着した。

春日山の謙信からである。なお信玄は多分な疑惑をもちながら、その書簡を披いた。

書は簡単であった。